アカネイアに南進するにしろ、アリティアに西進するにしろ、避けて通れない道がレフカンディにあるデビルマウンテンだ。
主要国への要衝、本来であれば整えるべき山道、そんな場所を長期間占拠するしょーもない凶賊たち…。死ねばいいのに。
遠い空の下にいる俺の希望を叶えるかのごとく進軍するマルス王子たち一行と時を同じくして、奴らの根城から決死の逃亡を図る者たちがいた。
凶賊に囚われていたシスターレナと、彼女を逃がそうとする盗賊ジュリアンである。
驚いた。シスターレナがなぜこんなところにいるのだろう?
俺は彼女と面識がある。いい加減妻を娶らなければならなくなった時、俺が選んだ求婚相手が彼女だったのだ。
かの令嬢ならば妹たちと共にこの国を清浄に育んでくれるだろうと思ったからだが、結局、そうはならなかった。穏やかに、だがはっきりと、彼女が俺の求婚を断ったからだ。
俺は彼女の意思を尊重した。一生涯に関わる話だし、やる気がない者に時間を割いてもしょうがないからだ。
しかし凶賊共め。我が国マケドニアの清く正しい貴族令嬢をも無差別に捕えるとは。生かしてはおかぬ。マルス王子が。
シスターレナと盗賊ジュリアンは、凶賊共の用心棒をしていた(もうすこし仕事を選んだらどうか)ナバールという傭兵の助けを借りて、なんとかマルス王子たちの陣に到達した。
シスターレナは怪我人の救護ができ、盗賊ジュリアンは密偵の真似事ができ、傭兵ナバールは近い将来勇者になんなんとするポテンシャルを持つ。
破格の人材を棚ボタ的に手に入れつつ、凶賊共を蹴散らしつつ、マルス王子の進軍は続いた。