雷の神獣ヴァ・ナボリスは、ゲルド族の英傑ウルボザが使役していたラクダの形をした神獣です。
雷のカースガノンに乗っ取られたナボリスは、ゲルドの街周辺一体に砂嵐と雷を引き起こすようになりました。
ナボリスが降らせる雷を無効化できるのがゲルドの至宝「雷鳴の兜」であり、それゆえにルージュ様は「正直イーガ団に神器を盗まれた時は目の前が真っ暗になった」そうでした。
「母様が亡くなられたため、私は若くして族長になった。ゲルド族のみんなは優しいが、その目は以前より不安そうだ。そんな中ナボリスが現れ、同時にこの国の宝が盗まれたのだ。無力な族長だと思われているに違いない…」
自嘲しながらルージュ様が呟きますが、こんなに聡明なルージュ様が無力だなんてありえません。サイズ的に大きい雷鳴の兜をかぶって「ど、どうだ? 似合うか?」とリンクに確認する様子はエグいくらい可愛らしいではありませんか。兵たちだって私たちが守らないとと無限に士気を上げているに違いありません。
「そ、そうか、似合うか。…お前の一言でこうも気持ちが落ち着くとはな」
…リンクをお婿さん候補に入れないでくださいねルージュ様。
「さて、雷鳴の兜も戻ったことだし、ナボリスを止めに行くとするか」
ルージュ様が言うには、ナボリスの4つ足をバクダン矢で破壊し地面からのエネルギーを遮断すれば中に乗り込めるようになるだろうとのことでした。
「ナボリスの雷は雷鳴の兜の雷無効効果で私が防ぐ。攻撃はそなたに任せるが、危なくなったらいつでも攻撃を中断し引き返してほしい」
優しい…!
とはいえ向こう見ずなリンクは攻撃の手を緩めることなく、もちろん引き返しもせず、「頭がおかしいのか?」というくらい果敢に、直球に、前のめりに、怖いもの知らずに、ガンダムもかくやという大きさのナボリスに立ち向かっていきました。
そうしてナボリスの中に入ったリンクを待ち受けていたものは…。
『懐かしいねえ』
ウルボザ…!
『あんたは必ずここに来る。私はそう信じてたよ』
ウルボザ、ああ、ウルボザ!
ウルボザと私のお母様は親友でした。だから100年前、私は英傑たちの中で特にウルボザと親しくさせてもらっていたのです。
こうしてまた相まみえることができるなんて、夢のようでした。
ウルボザは他の三人同様、まずは勇導石でマップを手に入れなとリンクを誘導します。
制御端末を操作し、メイン制御装置を起動させ、例によって雷のカースガノンが出現した時、リンクは珍しくイライラしたような表情で、そっちがカースガノンかって勢いで襲いかかっていきました。かつてのウルボザへの仕打ちもさる事ながら、ナボリス内での無限の迷子経験が殊のほか彼の神経を逆なでしたのでしょう。
『さすがだね。これでやっと自分の仕事を果たせるってものさ』
カースガノンを倒すと、若干引き気味ではあったものの、解放されたウルボザが登場しました。
彼女は「ウルボザの怒り」という能力をリンクに授けます。リンクなら自前の怒りでガノンをやっつけられそうですが、英傑たちの助力は無条件に嬉しいものです。一緒にいるって感じがしますしね。
『あんたもあの子も私らのことで苦しんだんだろうけどね。あの子に伝えておくれ。もう気に病むんじゃないよって。胸を張っていいんだって』
…胸を張るなんてできるわけがありません。もっと早く私が封印の力に目覚めていたら、この100年の大破壊は起きなかったのですから。
「…言ったところで聞き入れてくれるかな」
リンクが苦笑して尋ねます。…日々すこしずつ記憶が戻ってきているみたいですね。私の頑固な性格が丸バレです。
『あんたが言い聞かせるんだよ。ただ傍にいるだけじゃなく、たまには男らしく包み込んでやりな』
「俺が?」
『そりゃそうさ。むしろあんた以外に誰がいるんだい。ぽっと出の男なんぞ、王様どころか英傑全員が認めないよ』
「…姫様って好きな人はいなかったの? いるならその人の子孫を探してみるけど」
『あんた、まだ記憶が曖昧みたいだね。まあいい、おひい様を頼んだよ。…ああ、ついでにこのハイラルもね』
…ウルボザ!!!(大泣)
ナボリスの中から退散させられるリンクが最後に見たのは、在りし日を思わせるような、とても楽しげで美しいウルボザのウィンクでした。
「帰ってきたか! 無事で良かった」
ルージュ様が喜色満面でリンクを出迎えます。本当に心配していてくださったのですね。(ナボリスの中の謎解き以外は)大丈夫でしたよ。退魔の勇者は最強なのですから!
ですが私もルージュ様と同じく晴れ晴れしい気持ちでいっぱいです。なにしろ四神獣をすべて解放するというミッションが今達成されたのですから!
『すべての神獣と英傑たちが解放されました』
嬉しさのあまり、気付けば私はリンクに気軽に語りかけていました。これ、結構気力というかがんばりゲージを使うのですけどね。今日は特別です。
『彼らは待っているでしょう、あなたがハイラル城でガノンと戦う時を。…私も待っています』
いえ、だから早く来てねと催促しているわけではありませんよ? ゆっくりと、自分が納得できるスピードで、でも可及的速やかに、それでいて後悔しない道順を経て来て欲しいのです。リーバルも言っていましたが、あれから100年も経っているのです。この上の1日や1週間や1ヶ月や1年なんて誤差の範疇でしかありませんからね。
リンクは四神獣を開放したことをインパに報告しにカカリコ村に戻ります。
「ほう…あの4人の存在を感じる」
敏いインパはリンクを見つめて目を細めました。
「この清々しいまでの気配…。無念だっただろうが、そなたに再会できて、さぞ嬉しかったことだろう」
「みんなに言われたよ。姫様を頼むって。神獣でサポートするからお前はとにかくガノンに一泡吹かせろって」
「そうか…。さすがは英傑、死してなお魂の芯から高潔なままなのじゃな」
かつての彼らを思い出したのか、インパの目に涙が浮かびます。
「英傑と神獣の再来により、厄災ガノンの力が弱まっておる」
英傑と神獣の再来。…声に出して言いたい日本語ベスト3に入ります。
「今こそ機なり。姫様のもとに向かうんじゃ」
インパの言葉に退魔の勇者が気負いなく笑います。…ああ、本当に。ここまで来たのですね…。
…リンク。私の力が尽きる前に、どうかハイラル城に来てください。
記憶をなくしたあなたがそれでも私を目指してくれたように、私も命をかけてあなたを守ると誓います。
ブレワイアテンダント14→勇者の剣(+DLC 剣の試練)&英傑たちの詩(DLC)